皆さまは、やりかけの作業や途中で中断されたタスクのことが、なぜかずっと頭から離れない、という経験をしたことはございませんか。例えば、仕事のメールを打ちかけのまま急に呼び出されてしまったり、資料づくりを途中で中断してしまったりした後でも、作業の続きを気にしてしまうことがあるかと思います。これは「ツァイガルニク効果」と呼ばれる心理現象が大きく関わっています。ツァイガルニク効果とは、心理学者のブリューマ・ツァイガルニクによって提唱された理論で、不完全な状態や未完了のタスクほど、より記憶に強く残ってしまうという性質を表しています。
たとえば、ドラマの続きが気になって結末をついつい検索してしまうような状況も、実はツァイガルニク効果の一例です。未解決のままになっている問題を脳が優先的に処理しようとしてしまうため、人は意識のどこかでそれを思い返し「早く完結させたい」「続きを知りたい」と自然に思うようになるのです。
【概要：ツァイガルニク効果と仕事効率】
このツァイガルニク効果は、20代から30代の会社員の方々が日々の仕事を効率的に進めるうえで、大きなヒントを与えてくれます。日々の業務には、複数のタスクや雑多な用事が詰まっていることが少なくありません。メール対応や会議準備、クライアントへの資料作成、ちょっとした手続き業務などを同時並行で抱えると、どうしても「どこから手をつけていいのかわからない」と感じたり、「集中力が切れてどれも中途半端になってしまう」という方も多いのではないでしょうか。そうした中でツァイガルニク効果を意識して活用できれば、“中途半端”な状態を逆手に取り、集中力ややる気を高めて仕事を効率的にこなすことが可能になります。
ツァイガルニク効果は元来、“未完了のことを完了させようとする心理的エネルギー”を引き出してくれる現象であり、未完了であるがゆえに脳内に作業が強く残る点が注目されるのです。この機能を意図的に利用すれば、モチベーションが落ちているときにも「やりかけが気になるから、もう少しだけ進めてみよう」という心理を生み出しやすくなります。すると、案外スムーズに仕事が前に進み、気がつけば他のタスクも波及的に片づいてしまうこともあるのです。
【概要：エピソード紹介】
エピソード1：気乗りしなかった資料作成を勢いで始めたら、その日のうちに完成
とある20代の会社員Aさんは、月末が近づくと決まって提出を求められるレポート作成が負担でした。書類の構成を考えるだけでも億劫に感じて、「時間のあるときにまとめてやろう」と先送りばかりしていたのです。ところが、ある時「とりあえず一部だけでも作成してみよう」と腰を上げ、中途半端なところまで手をつけたまま昼食に出かけました。すると、ランチを終えて戻ってきても「続きを書かねば」という気持ちがずっとくすぶっていて、その日のうちに全体の7〜8割を作り上げることができたのだとか。「少しやっておこう」が思わぬ集中力を生み出し、資料を完成させる原動力になったのです。
エピソード2：企画書づくりで苦戦中、あえて一番難しい部分だけ先に手をつける戦略
30代の会社員Bさんは、クライアント向けの新規企画書を作る際、アイデアの練り直しやデザイン構成に時間をとられていつも納期ギリギリになりがちでした。そこで、彼はあえて「最初に一番気が重い部分に着手して、途中まで形にしてみる」という手法をとったそうです。一度手をつけてしまえば、案がまとまっていない箇所やイラスト素材の用意が中途半端に残っているままになるので、自然と「早くここを完成させたい」という意識が働きました。その結果、意外なひらめきやアイデアを得ながら企画書の全体像を作り上げることに成功し、いつもより余裕をもって納品できたのだと言います。
エピソード3：メール対応を始めたら未返信が気になり一気に片づいた
20代の会社員Cさんは、普段から営業で多くのメールをやりとりするため、どれから手をつけるか迷って放置してしまう癖がありました。そこで、ツァイガルニク効果を活かすことにして「3通だけ返信を始める」というルールを設けたところ、まだ返信していない残りのメールが気になって仕方がなくなりました。結果として、テンポよくどんどん返信を進めてしまい、気づけば20通近いメールをすべて片づけることができたのです。人間の脳は、やりかけの作業を無視して他のことをするのが苦手なようで、「もう一息、残りもやってしまおう」という気持ちが盛り上がる好循環を生み出しました。
【概要：ツァイガルニク効果の活用法】
ツァイガルニク効果を仕事に活かすためには、未完了の状態をあえて作り出すことがポイントになります。ただし、やりかけの作業が増えすぎると、ただ混乱を招いてしまうだけですので、適切な範囲で中途半端を演出することが大切です。例えば、資料作成ではタイトルと目次だけ先に書いておき、本文を途中にして席を立つ。それだけでも「この続きが気になる」という感情が湧き、再開するときにスムーズに書き始められるのです。
また、タスクに着手する際には「一気に完成させなくてもいいから、とりあえず最初の数ページを書いておく」という気軽さをもつと、脳が“続きがある”と認識して勝手に先を進めたくなります。さらに、終わりが見えない大きなプロジェクトにも、まずは最重要部分だけに手をつけ、中途半端にしておくのがおすすめです。その中途半端が、あなたのやる気を高めるブースターになり得るでしょう。
ただし、職場の環境によっては、あまりにも途中放棄に見える行動をとると周囲が混乱してしまいますので、「ちょっと今は区切りをつけますね」「後で続きをまとめますので少々お待ちください」といった一言を添えておくとスムーズです。周りへの気遣いを忘れずに、適度な“未完了感”を演出できるよう意識してみてください。
【概要：今すぐ実践できるアクションプラン】
まずは、今まさに取りかかろうとしている仕事やタスクをいくつか思い浮かべ、そのうち比較的気が重いと感じるものに目を向けてみましょう。そして「やり始めてもすぐに完了しなくていい。とりあえず途中まで進めるだけでOK」と考え、実際に手を動かしてみてください。 すると、思いのほかスムーズに作業が進み、「続きがあるからもっと進めなきゃ」という衝動に駆られるはずです。そこで、満足感を得る前にわざと“もう少しだけで止めておく”のも効果的です。少しだけ満ち足りない状態が、あなたの脳をくすぐって「続きをやりたい」という感覚を持続させるのです。 この一連の流れを日々の習慣として取り入れると、作業効率が向上し、時間の使い方が整っていきます。やらなきゃいけない書類、企画案、メール処理など、どのタスクにも応用できるのがツァイガルニク効果の強みです。心の中で「まだ全部終わってないし、先を進めなければ」という気持ちが続き、結果的にタスクをどんどん片づけられるようになるでしょう。
また、多少のストレスやプレッシャーを感じているときでも、この効果は頼もしい味方になってくれます。「やりかけの作業を残しておけば、続きが気になってきっとやる気が湧いてくる」と信じて行動すれば、先延ばし癖の防止にもつながります。後回しにしてしまいがちな仕事ほど、先に一部だけでも片づけておいてください。すると、気づかないうちに“次へ進めたい”という欲求が自然に大きくなり、いつの間にか作業を終わらせていることでしょう。
結局のところ、ツァイガルニク効果とは人間の「不完全を嫌う本能」を上手に刺激する仕組みのようなものです。完成に向けて脳を自動的に突き動かしてくれるため、上手に使いこなせば成長の加速やモチベーションアップに大きなメリットをもたらしてくれます。気軽に「まずは途中までやってみる」というスタンスで、皆さまの仕事にぜひ活かしてみてください。中途半端を作ることで逆に勢いを得られる――そんな不思議な感覚を体験するうちに、気づけば業務効率が飛躍的に向上し、充実した毎日を過ごせるようになるかもしれません。
ツァイガルニク効果を味方につけて、仕事への意欲を絶やさず、やるべきことを着実に進めていきましょう。20代から30代の会社員の方々が抱えがちな多忙な日常においても、きっと「未完了だからこそ動き出そう」という新たなきっかけを得られるはずです。どうか皆さまも、半端な状態を怖がらず、むしろ自分の意志を奮い立たせるためのヒントとして利用してみてください。そうした小さな心がけの積み重ねが、大きな成果への道を切り開く原動力となるはずです。ツァイガルニク効果で日々の仕事と上手に向き合い、さらなる飛躍を目指しましょう。