大きな買い物をしたり、転職や部署異動などの重大な意思決定をした直後に、なぜか気が緩んでしまい、普段なら絶対に選ばないような選択をしてしまう。そんな経験はありませんでしょうか。実は、この現象には「テンションリダクション効果」という名前が付けられています。大きな選択を終えると、通常より高まっていた緊張感や集中力が一気に解放され、それまでのストレスを一瞬で忘れてしまうほどに気が抜けてしまうのです。その結果、他の選択や行動に対してつい油断が生じやすくなり、後々後悔するようなミスや浪費をしてしまいがちになります。
特に20代から30代の会社員の皆さまは、日々の業務で判断を迫られることが多く、大きな案件が無事に終わったときなどにホッとする瞬間も多いことでしょう。とはいえ、そこで思わぬ落とし穴にハマってしまうと、せっかくの達成感が台無しになってしまう可能性があります。そこで本記事では、テンションリダクション効果にまつわるエピソードを3つご紹介しながら、どのように対策すればよいのか、具体的な方法を丁寧にお伝えします。最後には、すぐに実践できるアクションプランもお示ししますので、日々のビジネスライフをより安心して過ごすためにも、ぜひ最後までお読みいただけますと幸いです。
【大きな決断をした直後、なぜ気がゆるむのか】
人は大きな意思決定をするとき、無意識のうちに多くのエネルギーを消費しています。たとえば高価な買い物であれば、その商品を本当に買うべきか否か、どういうスペックを選ぶか、価格は予算内か、割引やキャンペーンはあるか…など、多くの要素を見比べて慎重に判断します。仕事においても同様で、上司や取引先との折衝、同僚とのすり合わせ、担当案件の進め方など、あらゆる局面で神経を研ぎ澄ませていることでしょう。
こうした「緊張状態」が一区切りついて「決断が完了」した瞬間、私たちの脳と心は束の間の解放感を味わいます。まるで登山を終えて山頂に到達した直後に、息をつくような感覚です。しかし、その瞬間の快い感覚が厄介な問題を引き起こしてしまいます。極度に高まっていた緊張が一気にゆるみ、「ここから先は大丈夫だろう」「もう安全だろう」という油断が生まれやすくなるのです。これがテンションリダクション効果の正体であり、私たちが気づかないうちに引き起こされる心理的トラップとなります。
【エピソード1:高額家電を購入した直後の散財】

エピソード1:大きな出費をした直後に、つい「ついで買い」を連発してしまう
たとえばボーナスで思いきって最新の大型テレビや高機能PCを購入した場合を考えてみましょう。もともと値段が高く、普段なら躊躇してしまうはずですが、「この機能があれば仕事もはかどるし」「長く使うものだから」と自分を納得させて買うわけです。購入に至るまでには、何度も比較検討し、何度もお店やオンラインストアを行き来して、価格や性能について調べ上げるので、それなりに緊張感が高まっています。
ところが、いざ購入を済ませてしまうと、長時間の葛藤から解放されてホッとする反面、「大きなお金をすでに出したから、もうこれくらいは誤差だろう」といった心理が働きやすくなります。その結果、欲しいと思っていた周辺機器や、普段なら必要ないようなオプションサービスまで、「せっかくだし」「もうここまで来たら一緒だし」と、追加で買ってしまうのです。しかも、テレビ台やケーブルなど、実は必要不可欠なものまで「まあいいか」と勢いで高い商品を選んでしまい、気づけば出費が膨らんでしまう。こうした「テンションリダクション効果」は、小さな場面にも大きく影響します。
【エピソード2:上司へのプレゼンが成功した後の気の緩み】

エピソード2:大きなプロジェクトのプレゼン終了直後に、別の案件でミスをする
次は仕事の場面でよくあるケースです。たとえば、あなたが重要顧客を前にしたプレゼンを成功させるために、準備に準備を重ね、資料を練りに練って発表のリハーサルを繰り返したとします。もう数日間、頭の中はプレゼンのことばかり。何度も悩み、同僚に意見を聞き、上司とも綿密に打ち合わせを重ねて、ようやく本番を迎えた瞬間は、かなりの緊張状態にあるはずです。
無事プレゼンが終わり、「よかった、成功した」と安堵に包まれた直後、急に気が抜けてしまいがちになります。すると、他にも抱えている別の案件や業務に注意が向かなくなり、ちょっとした確認を怠ったり、重要なメールを見落としたりしてしまうのです。「大仕事をやり切ったから、もう大丈夫だ」という油断が、このような凡ミスにつながってしまいます。テンションリダクション効果は決して買い物だけで起こるものではなく、仕事にも暗い影を落とす可能性があるのです。
【エピソード3:結婚式の準備を終えた後の急激な無気力感】

エピソード3:人生の大きなイベントを成功させた後に、モチベーションがガクッと下がる
最後に、ややプライベート寄りの例ですが、これもまさにテンションリダクション効果がはたらく場面と言えます。結婚式という人生の大イベントは、式場探しから招待状の準備、衣装合わせ、料理や引き出物の選定、ゲストとのやりとりなど、一連の作業をこなすために膨大な労力がかかります。さらに、友人や親戚からの助言もあれば、両家の意向をすり合わせる必要もあるため、とにかくエネルギーの消費は絶大です。
ようやく式が終わると、「よし、無事終わった」と安堵する反面、あれほど濃密に準備をしてきた反動で気が抜け、何をするにも面倒になってしまう方は珍しくありません。しかも、そのタイミングで新生活に向けての諸手続きや家具の配置、今後の家計管理などをしっかり話し合わなければならないのに、「もう疲れたから、後でいいか」と先延ばしにしてトラブルを招くこともあります。まさに、大きなゴールを達成した直後だからこそ、慎重になるべきところが疎かになってしまうのです。
【テンションリダクション効果を理解し、上手に付き合う方法】
ここまでご紹介したエピソードからもわかるように、私たちは大きなイベントや大きな買い物、重大な意思決定を終えた後に、急激に気がゆるみやすくなります。この心理的効果を理解していないと、思わぬところでお金を使いすぎたり、仕事でミスをしたり、生活に支障をきたすようなトラブルを引き起こしてしまいがちです。
しかし、テンションリダクション効果そのものは人間の自然な反応とも言えます。大事なのは、この現象が起きることをあらかじめ自覚し、そのタイミングで落とし穴にハマらないよう手を打っておくことです。やみくもに「気を張り詰めておこう」と思っても、いずれガス欠になってしまうだけです。むしろ、ある程度は「気がゆるむ瞬間が来る」とわかっていれば、自分や周囲を必要以上に責めることなく、適切にリスク管理を行うことができます。
具体的には、大きな決断や買い物の後に生じる油断や疲労感、どこか浮ついた気持ちを「仕方ないもの」と受け止めつつ、少しだけ残った意識を「次の行動」に向けておくのがコツです。たとえば、高額家電を購入する前に、予算をきっちり決めて「周辺機器はこの金額まで」とリミットを設定しておく。仕事の大きなプレゼンを終えた直後には、別の案件の重要メールを整理しておく時間を先に確保しておく。結婚式を終えたあとの手続きリストを、あらかじめ分割しておいて、少しずつ着手できるようにしておく。こうした少し先回りの対策が、テンションリダクション効果による落とし穴を回避する有効な手段となるのです。
【すぐに実践できるアクションプランを意識する】
テンションリダクション効果を理解したら、その知識を日々の生活にどう活用するかが重要です。まずは、重大な決断をする前から「決断後に気がゆるむリスクがある」と認識しておきましょう。そうすることで、決断した後の行動を事前にイメージでき、余分な出費やミスを防ぐためのマイルールを設定しやすくなります。
たとえば、大きな買い物の直後に細かい追加出費を重ねないようにするために、「何かを買った日は、その夜に一度使った金額を整理し、財布や口座残高を目視で確認する」というシンプルな習慣をつけるだけでも効果的です。仕事の場合も、「大きな会議やプレゼンの翌日に重要メールやスケジュールを点検する」というルーティーンを設定しておけば、気が抜けたときに発生しやすいミスを予防できます。
もし「結婚式」「転職」「引っ越し」など、人生の大きなイベントが控えているなら、計画段階から「終わった直後に何をするか」を決めておくとよいでしょう。具体的には、引っ越しなら「終わった翌日に最低限片づける場所はどこなのか」をリストにしておいたり、転職が決まった直後に「次のステップとなる学習プラン」や「スキル習得のための学習サービス登録」などをさっと済ませておくのも一つです。こうして次の一手を明確にしておけば、「燃え尽き症候群」や「気が抜けてやる気が出ない状態」に陥るのを軽減できます。
【自分らしく、健やかに対処する】
テンションリダクション効果が生じるのは、決して悪いことばかりではありません。大きな達成を喜んだり、ホッと肩の力を抜いたりするのは、私たちがメンタルをリフレッシュさせるうえで大切な機会でもあります。ただ、そのタイミングで深刻なミスや浪費を引き起こしてしまうと、「もう疲れるから挑戦するのはやめよう」と萎縮してしまうリスクが高まります。そうなると、自分自身の成長や前進のチャンスを逃しがちです。
だからこそ、テンションリダクション効果が起こることを前提に、少しだけ理性を残して行動する努力が必要です。無理に気を張っておこうとしても疲弊するだけですから、「緩むべきタイミングでは緩む」けれど「大事なポイントは先回りしてクリアにしておく」というバランス感覚を意識してみてください。結果として、自分らしく無理なく達成感を味わいながらも、次のミスや余計な出費を最小限に抑えた行動が取れるようになるはずです。
【気づきを明日からの行動に活かす】
20代から30代の会社員の方々は、仕事やプライベートでの決断が増える時期でもあります。キャリアアップを目指して資格を取得したり、大きなプロジェクトを任されたり、あるいは結婚や引っ越し、留学などライフイベントが集中しやすい時期とも言えるでしょう。こうした環境では常に緊張感が高まりやすく、一つ一つの決断にエネルギーを注ぎ込むことで、その後のテンションリダクション効果を招きやすい状態が生まれます。
しかし、これをネガティブに捉える必要はありません。大切なのは、一度「自分はこういう場面で油断しやすいんだ」「大きな決断を終えた後の行動を見直そう」と認識し、適度な準備をしておくことです。先述のように、具体的な行動リストやマイルールを自分なりに設定しておくと、気が抜けている最中でも「あ、ここは気をつけなくちゃ」と自分を客観視できるようになります。
また、万が一テンションリダクション効果によって小さなミスや追加出費が発生してしまったとしても、「あ、これは例の現象だな」と冷静に捉えて、すぐにリカバリーする意識を持つことが大切です。ミスを責め続けるのではなく、次回への学びとして活かせば、同じパターンを繰り返す可能性は格段に下がります。
【次のステージへ踏み出すために】
以上、テンションリダクション効果の正体と、実際のエピソード3例、そして具体的な対策・アクションプランについてご紹介してきました。大きな買い物や重大な意思決定の直後は、どうしても緊張感が解け、つい「まあいいか」と油断してしまうものです。しかし、事前にこの心理トラップがあると知っているかどうかで、その後の行動は大きく変わります。
大事なのは、「油断する瞬間がある」という事実を受け止めて、先回りした対策を取ること。たとえば予算を厳格に決めておく、決断したその日に必要なチェック項目を作っておく、翌日に必ず口座残高を確認する、など自分の生活に合った習慣やルールを設けるのがおすすめです。そうしておけば、大きな決断後も大幅なトラブルや出費を回避しやすくなり、心地よい達成感を維持したまま次のステージへ進んでいくことができるでしょう。
ぜひ、あなたもこのテンションリダクション効果を正しく理解し、上手に付き合いながら、大切な決断やイベントを充実させてみてください。どんな場面でも、油断しすぎず、かといって必要以上に自分を追い詰めることなく、しなやかに対応していくのが理想的です。あなたの日常が少しでも豊かになり、安心して行動できる一助となれば幸いです。どうか楽しみながら、そして自分の感情を大切にしながら、明日からの行動に活かしてみてくださいね。